訪問者 / 萩尾望都
小学館文庫
表題作を含め4つの短編が収められていますがいずれも傑作。中でも「エッグ・スタンド」はヌーヴェルヴァーグのよう。映画を観たような気になる。
◯ 訪問者
「トーマの心臓」番外編。オスカーの少年時代を描いた作品です。エピソードは「トーマの心臓」でも語られていますが、オスカーはグスタフの子供ではなく、妻ヘラが親友ミュラーとの間に作ってしまった子供です。父親に愛されたかったオスカー、オスカーを愛せなかったグスタフの切ない物語です。泣けます。
他の収録作品には、いずれも、城とか、卵とか、天使の羽などメタファーが使われていて、強烈な印象を与える。短編ながら深い含意を持つ作品で、もう漫画というより文学ですね。
◯ 城
ラドクリフが6歳のとき、父と母は離婚した。幼い弟と妹を母は連れて行ったが、ラドクリフは父のもとに残った。それ以来ずっとラドクリフの心の中では小鬼が石を積み上げ、お城をつくっている。
◯ エッグ・スタンド
ナチス占領下のパリ。身寄りのない少年・ラウル。彼がずっととらわれているのは、孵化せずに死んだヒヨコの姿である。ある日、ゆで卵を割ると、中から黒ずんだヒヨコが現われる…。孵化せずに死んだ黒いヒヨコは彼自身である。
◯ 天使の擬態
寒い夜、鎌倉の浜辺で睡眠薬で自殺を図った女子大生・次子。彼女は翼ある天使への進化を夢想する。
※今年の漫画読書 5作品目