小学舘文庫 全10巻
物語
16才の少年ジェルミは義父グレッグから性的虐待を受けていたが、母サンドラの幸せな結婚生活を壊さないため、その事を告げることができなかった。やがてジェルミはグレッグに殺意を抱くようになり、クリスマスの前夜、ジェルミは計画を実行に移すが、巻き添えでサンドラまで死なせてしまう。
義兄のイアンは、ジェルミと父の死に何らかの関係が存在することを察知し、真相を追求しようとする。
文庫版で全10巻、コミック版は全17巻になる長編。1997年、「第1回手塚治虫文化賞優秀賞」を受賞した。萩尾望都の後期の代表作。
ざっくり、前半は義父グレッグの性的虐待でジェルミが精神的にも肉体的にも過酷に苛まれる展開。グレッグのド変態キャラはインパクトあるな。
後半は、グレッグとサンドラが亡くなった後のトラウマに苦しむジェルミのドラマ。義兄イアンも父グレッグの悪魔的な正体を知りショックを受ける。
主にジェルミとイアンとの関係や、様々な問題を抱えた人物が複雑に絡み合いながら、次第にジェルミが壊された心を再生していく展開。
モチーフとしては「トーマの心臓」に似ているが「トーマの心臓」は信仰の再生というキリスト教的な文脈で語られる。これに対して、本作は心理学的なアプローチで描かれていて、トラウマとその克服の過程にリアリズムを感じる。
イアンとジェルミの愛と葛藤は複雑だ。イアンは始めは父を殺したジェルミを憎み、父がジェルミに対して行った事実を知ってからは憎みは贖罪の気持ちに変わる。
傷ついたジェルミを保護するイアンだが、心の底では、本人も気がつかない支配欲が存在していて、ある日、ジェルミの挑発からジェルミと肉体関係を持ってしまう。父親と同じくジェルミに執着する自己の内面と向き合わざる得なくなり、やがてジェルミに対する愛情に気がつくと言うものだ。BL(ボーイズラブ)も奥深いな…。
ジェルミとサンドラの関係や、周辺キャラにも考えさせる様々なドラマがあり、読み応えのある作品でした。
※今年の漫画読書 13本目