復讐するは我にあり 1979年
今村昌平監督
日豊本線築橋駅近くで専売公社のタバコ集金に回っていた柴田種次郎、馬場大八の惨殺死体が発見され現金41万円余が奪われていた。やがて、かつてタバコ配給に従事した運転手・榎津厳が容疑者として浮かんだ……
1963年から1964年にかけて起きた連続殺人事件「西口彰事件」を元にした作品。全国を逃亡し犯罪を繰り返した西口彰事件は当時の社会を震撼させた。
実際に起きた殺人事件を扱っていて、事件の顛末よりも、その背景に焦点が当たる。犯人の生い立ちや父親との相克、犯人の妻と義父との恋情など複雑な人間関係が描かれる。緒形拳、三國連太郎、倍賞美津子ら実力派俳優らの演技が素晴らしい。
人間の本質に迫る猥雑なリアリズムは今村昌平の真骨頂。倍賞美津子、小川眞由美らの裸の演技が凄い。
事件が起きた1963〜1964年は日本は高度成長の真っ只中。アメリカではケネディ大統領が暗殺されている。映画は、金銭目的の強盗殺人犯を善悪という尺度で裁くのではなく、己の欲望を満たすためには手段を選ばない時代の仇花として描いているように見えた。
今村監督は「うなぎ」と「楢山節考」で二度パルムドールを受賞しているが、その二作に勝るとも劣らない名画でした。
※今年13本目の映画鑑賞。