姿三四郎 1943年
黒澤明監督
黒澤明監督のデビュー作。戦時中、娯楽の少ない時代に大ヒットし、小津安二郎が120点の出来と評価している。
公開当時は97分の映画は、戦時中に電力節約のた80分以下に制限され79分にカット。更に戦後のアメリカによる検閲で71分にされた。現在は79分版と、ロシアで発見されたフィルムから復元した91分版があるが、残念ながら完全なものはないそうです。
僕が観たDVDは79分バージョンでしたが、それでも価値ある内容でした。
先ず、藤田進さんがいい。姿三四郎の素朴純情さ、柔道は無敵だが気は優しい。一本気で女性には奥手。ベタなキャラだけど、さわやかな青春映画なんです。
デビュー作は不出来かと想像しましたが、初めから才能溢れる作品でした。黒澤監督らしい演出が光っています。
下駄
映画冒頭の方、三四郎が矢野正五郎と出会い弟子入りする。矢野が乗る人力車を引くために路上に脱ぎ捨てた下駄。弟子入り後の修行の苦労や時の経過を、風雪に晒される、この下駄ををめぐる情景によって伝える。詩的で美しい演出だった。
池の蓮
師匠に柔道の真髄を悟れなければ死ねと言われ三四郎が池の中に飛び込みます。そのまま池に浸かって、棒杭につかまったまま一晩を過ごした、その早朝、池に咲いた花を見て三四郎は悟りを開きます。禅の世界観ですが、この物語で一番精神的なシーンです。
檜垣源之助との果し合い
果し合いの場所は、広大な山裾で強風が吹きすさぶススキの原。山にかかる黒雲も強風で速く流れています。 劇的な風景です。
道場や、その辺の川原じゃ駄目なんです。斬り合いと違い、地味な柔道の仕合だからこそ、風景の演出が重要なんでしょう。もの凄い戦いを見た気分になりました。
おまけ
この山裾は仙石原のススキ野だそうです。撮影当日は天気が悪く、撮影を諦めたとき、一瞬天気が変わり撮影したので、あの激しい雲の流れのシーンも撮れたそうです。
※今年13本目の映画観賞