金魚のうたた寝

映画、漫画、小説などの話

硫黄島からの手紙

硫黄島からの手紙               2006年

クリント・イーストウッド監督

物語

太平洋戦争の末期、戦況が悪化した硫黄島では日米軍の戦闘が開始されようとしていた。その頃、島に新しい指揮官、栗林忠道が降り立った…。

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父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」日米双方の視点から描いた硫黄島2部作の第二弾。日本側の視点から描いた作品。

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栗林忠道中将を総指揮官とする旧日本軍が激しく抵抗した。米軍は開戦前は5日で島を制圧できると考えていたが、戦闘は一カ月以上に及ぶ。日本側は守備兵力の約2万2000人が戦死、米側も6800人の死者を含む2万6000人が死傷した。

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米軍との戦力差を知っていた栗林中将は戦いに勝利することではなく、「上陸部隊に可能な限りの損害を与え、日本本土への進行を1日でも遅らせる」ことを目標としていました。総延長十八キロに及ぶ地下坑道を掘り島全体を要塞化してアメリカ軍を待ち受けます。

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自決、玉砕、内紛、そして最後の決死戦。悲惨なシーンが続きますが、実際にあったことのようです。映画を観て、この戦争を知りました。

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2004年、イチローがメジャーのシリーズ最多安打262安打の記録を打ち立てたとき、アメリカのマスコミで「かつて敵国として戦った日本人がアメリカ人とベースボールを一緒にプレイする時代がくるとは思わなかった。イチローを見て嫌いだった日本人が好きになった、」みたいな報道があった。イチローによる日本人のイメージ向上が、この映画の企画に影響を与えたのではないかと妄想したりする。

妄想話はさておき、「まさかアメリカ人が日本側の視点で戦争を描くなんて…」そんな時代がくるとは、栗林中将も驚いただろう。平和がなにより。

※今年227本目の映画鑑賞。

アンナ・クリスティ

アンナ・クリスティ    1930年
クラレンス・ブラウン監督
物語
ニューヨークの波止場に舫う石炭船に住むクリスのところに、妻を亡くして以来、親戚の農園に預けていた娘のアンナが15年ぶりに戻ってくる。父親はアンナは看護婦をしていると信じているのだが、実は、養子として行った大農園で養父や義理の兄弟に虐待を受け、農園から逃げて娼婦となり病気を患い療養生活を送った後だった。しばらく経って1つの船が父親の石炭船に迷いついた、そしてその船に乗っていた男はアンナに一目惚れしアンナも男を愛するようになるが…

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米国劇壇の巨匠ユージン・オニ-ルの初期作品で、ピューリッツァー賞を受賞した戯曲。ガルボにとっては初のトーキー映画主演であり、公開に当たっては「Garbo talks!(ガルボが話す)」と大々的に宣伝された。ガルボの第一声は「GIVE ME A WHISKEY...GINGER ALE ON THE SIDE...AND DONT BE STINGY BABY.」(ウィスキーをちょうだい、ジンジャエールを添えて、ケチらないでね。)だった。このセリフは20世紀の映画史上に残る名セリフとされている。

スウェーデンなまりのキツいガルボはトーキーになったら終わりだと言われたそうだが、あばずれたアンナ役にはピッタリとあって、サイレントからトーキーの壁をクリアしたと淀川長治さんが解説していました。

それにしてもガルボの存在感! スクリーンに登場する酒場のシーン(クリップ)。店を見回す視線、疲れきったように歩く足取り、わずか数秒の演技でアンナの素性がわかります。やはり違いますね。

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暗い過去を持つ女と、純粋な海の男の恋愛ドラマ。昨年、舞台で篠原涼子佐藤隆太が演じていますが、この劇の初演は1921年。”100年安心"、鉄板の脚本ですね。

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グレタ・ガルボを堪能。映画としての演出は控え目で、舞台をスクリーンに持ってきたような”もっさり感”がありますが、その分、役者の演技でしっかり魅せます。

※今年226本目の映画鑑賞。

休憩 : 権威

権威           /       後藤静香

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人生訓を含んだ詩集です。たまたま、ネットで「一歩」という詩に出会い、気に入ったので購入してみました。

「権威」というタイトルは「神の声、良心の声」というようなものをイメージしたもの。この本は戦前のベストセラーで吉川英治松下幸之助にも影響を与えたそうです。  

    

    一歩

 十里の旅の第一歩

 百里の旅の第一歩

 同じ一歩でも覚悟がちがう

 三笠山にのぼる第一歩

 富士山にのぼる第一歩

 同じ一歩でも覚悟がちがう

 どこまで行くつもりか

 どこまで登るつもりか

 目標が

    その日その日を支配する

 

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詩集より、もう一編。

こちらは寝る前に読みたいな。

 

    安眠

   今日も終わった

 はりつめた心をゆるめる

 憩いのかねが鳴りひびく

 まぶたは静かに閉じ

 脈拍と呼吸とが

 平和のしらべをかなでる

 すべてを託し

 いだかれきった平和

 目さめると

 うれしい朝が

 新しい人を待っている

 

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おしまい。

 

赤いコーリャン

赤いコーリャン            1987年

チャン・イーモウ監督

物語

  18歳のチアウルは、ロバ一頭と引き換えに、親子ほど年の離れた男の許へ嫁ぐが、すぐに夫は行方不明になり、彼女はかつて自分を強盗から救ってくれた使用人のユイ・チャンアオと結ばれ、子どもが生まれるが、そこに日本軍の侵略の魔の手が…

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チャン・イーモウ監督のデビュー作で、ベルリン国際映画祭グランプリを受賞した。原作はノーベル文学賞作家、莫言の「赤い高粱」。

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コーリャン畑で結ばれるチアウルをユイ。風に激しく揺れるコーリャン(モロコシ)が2人のエクスタシィを表現していて艶めかしい。表現規制の厳しい中国で、頑張ったんだろうな。

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チアウルを演じるコン・リーは、この作品でデビューする。80年代の日本のアイドルみたい。

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後半は抗日ドラマ。残酷な日本軍に対し男達が決起して闘う展開になる。コーリャンから作られた赤い酒は、人民の血の色、革命の旗の色を象徴するのだろう。鮮烈な色彩表現が美しい。

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映画として素晴らしいが、残虐に描かれる日本人を見るのはツライね。立場を異にする日本人には、すっきりしない作品。

※今年225本目の映画鑑賞。

闇の列車、光の旅

闇の列車、光の旅               2008年

キャリー・ジョージ・フクナガ監督

物語

ホンジュラス出身の少女サイラ。アメリカという約束の地をめざし、父と叔父と共に故郷を旅立った彼女は、多くの移民たちがひしめきあう列車の屋根の上で、カスペルという名のメキシコ人青年と運命の出会いを果たす。彼は、強盗目的で列車に乗り込んだギャングの一員。だが、サイラにとっては命の恩人となる。彼女に暴行を加えようとしたギャングのリーダーを殺したからだ。その結果、裏切り者として組織から追われることになったカスペルと、彼に信頼と淡い恋心を寄せ、行動を共にするサイラ。途中で列車を降りた2人は、トラックで国境を目指すのだが……

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ギャングの少年アメリカへ移民しようとする少女の物語。原題はシン・ノンブレ(名もなき人)。邦題がカッコいい。サンダンス映画祭で監督賞を受賞。

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偉くなるにつれ、入墨が増えるメキシコのギャング団。入団には13秒間、殴られ続けて死なないことが条件になる。ヤバい奴らだ。

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ホンジュラスからメキシコを通過する列車に乗ってアメリカを目指す移民。ホンジュラスは経済が弱く、国民の6割にあたる貧困層は日々の食事すら困る状態だそうだ。

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彼女をリーダーに殺されカスペルは列車強盗の際にリーダーを殺してしまい、組織に追われる身になる。カスペルを演じるエドガル・フローリーズは憂いがあって渋いね。ジェームズ・ディーンみたい。

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組織に追われるギャングの末路は決まっている。カスペルとサイラの愛が切なく哀しい。

なかなか、いい映画でしたよ。

※今年224本目の映画鑑賞。

ハッピー フライト

ハッピー フライト          2008年

矢口史靖監督

物語

副操縦士の鈴木は、機長昇格の最終訓練である乗客を乗せて飛ぶ実地試験でホノルルに向けて飛び立つことになる。彼は試験教官として同乗する威圧感たっぷりの機長の原田を前に緊張感を募らせていた。そんな中、キャビンアテンダントの斎藤は夢にまで見た国際線フライトに臨み、緊張感がピークに達していた。

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ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口史靖監督が、2008年に製作した航空会社を舞台にしたコメディー映画。

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航空機に係わる多くのスタッフを並行的に描いたドラマだが、機長昇格を目指す副操縦士の鈴木(田辺誠一)、国際線デビューとなる新人CAの斎藤(綾瀬はるか)らの活躍と成長がメインとなる。

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新人CAが巻き起こす珍騒動の連発は”おちゃらけ”過ぎかな。綾瀬はるかは好演しているが上滑りな印象。

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シリアスなシーンはよかった。飛行機で安全、快適に旅行できるのは、空港で働く管制官やスタッフ、整備士、飛行機に搭乗するパイロット、CA、さまざまのスタッフの努力の賜物だよね。

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パラレルなドラマ構成がユニーク。気楽に楽しめる映画になっている。矢口さんは上手いね。

※今年223本目の映画鑑賞。

夫婦善哉

夫婦善哉         1955年

豊田四郎監督

物語
曾根崎新地で売れっ子芸者の蝶子は、大阪の化粧問屋の道楽息子である柳吉と駆け落ちする。柳吉は親から勘当されてしまったため、生活が苦しくなっていく。蝶子はヤトナ(臨時雇い)芸者として働き始めるが、柳吉は蝶子の稼いだ金を道楽に使ってしまうのだった。

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織田作之助の小説「夫婦善哉」を、文芸映画の巨匠、豊田四郎が監督した。主演の森繁久彌淡島千景

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惚れられ惚れて、“甲斐性なし”の男に苦労する一途な女の切なさ。まさに演歌の世界ですが、柳吉と蝶子は、原作小説が発表された当時は”当世風”だったのかな。劇中に出てくるカフェやライスカレーを出す洋食屋にもモダンな雰囲気があります。

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淡島千景さんが良かったですね。美しく可愛らしい。情感が込もった演技が印象的でした。

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この映画で夫婦善哉を初めて知りました。大阪の法善寺の横にある店名。ぜんざい一人前を2つの椀で出すことから夫婦善哉といわれるそうです。東京では馴染みがないですが大阪じゃ常識なんでしょうね。

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雨降って地固まる、みたいな終わり方。淡々とした物語ですが、しみじみと心に訴えるものがありました。夫婦愛っていいですね。

※今年222本目の映画鑑賞。