生きものの記録 1955年
物語
町工場の経営者である中島喜一は、原水爆の危険から家族を守るため独断で財産を処分しブラジル移民を計画するが、家族の理解を得られず家族によって禁治産者とされてしまう。財産を自由に使えなくなり計画は挫折した喜一は狂気へと追い込まれていく。
過熱する米ソの核軍備競争や1954年に起きた第五福竜丸事件などで盛り上がる反核の世相に触発されて原水爆の恐怖を真正面から取り上げた作品。
派手なアクションもなく会話中心の劇で退屈な感もあるが、主人公の核の恐怖に対する異常な強迫観念と結末のシュールさは「世にも奇妙な物語」のようである。
作品としては失敗作ではないが、いかにも一般受けしない内容で興行的には失敗している。黒澤明監督は雑誌の対談で次のように述べている。
「日本人はあまりにも悲惨な、ああいう(原爆関連の)話が嫌いなのよ。観たがらないの。ぼくの作品のなかで唯一の赤字の作品がこれ。
それと同時に、日本の政治家というのは、アメリカにいわば媚びているでしょう。そういう題材を映画にするのは、ずいぶん難しかった」
35才の三船敏朗を特殊メイクで70才に仕上げた。三船さんの演技も相当のもの。
この映画が公開されてから半世紀も経っているが核兵器は廃絶されていない。それどころか破壊力は増している。
ソ連で開発された史上最大の水素爆弾ツァーリ・ボムバの威力は広島原爆の3300倍。一発で関東一帯を破壊できる。
「狂っているのはあの患者なのか、こんなご時世に正気でいられる我々がオカシイのか?」
劇中の精神科医のセリフは現代も問い続けられる。
※今年39本目の映画鑑賞