まあだだよ 1993年
黒澤明監督
物語
随筆家・内田百閒と教え子たちの交流を、ほのぼのとしたタッチで描いた作品。作家活動に専念するために教師を退職する百閒先生。しかし教え子たちは百閒先生の家を訪れるようになる。先生の家を舞台に、先生と教え子を巡る様々なエピソードが人情味豊かに綴られていく。
内田百間は漱石の門下生にして芥川の兄弟子にあたる小説家、随筆家ですが、正直、不勉強で知りませんでした。内田百問は偏屈で無愛想だったが、独特なユーモアの持ち主で教え子から慕われていたようで、映画に出てくる「摩阿陀会」という誕生会はは本当にあったものだそうです。
さて映画の方ですが、師弟が集まる摩阿陀会が長々と映されます。第一回の摩阿陀会では、開会の辞から始まり、乾杯、スピーチや先生の唄による大余興、最後に教え子による盛大な締めと映画史に残る宴会スペクタクル(笑)で、まるで摩阿陀会にリアルタイムで参加しているようです。地味ながら凄いシーンです。
宴会はリアルタイムのような流れで進行しますが、 内田百問の人生は、戦前から戦後へと、矢のようなスピードで流れます。この対照的な時間の演出は「時代の流れで変わるもの、変わらないもの」を描きだしているようで面白い。
戦後開催された一回目の摩阿陀会では物資乏しく、ビールとふかしたシャガイモの宴会でしたが、十七回目には豪華なパーティになり、教え子の子供や孫までが参加しています。
第十七摩阿陀会では内田百問が子供たちに語るシーンがあります。
「みんな、自分の本当に好きなことを見つけて下さい。本当に自分にとって大切なものを見つけるといい。見つかったら、その大切なもののために努力しなさい。きっとそれは君たちの心のこもった立派な仕事になるでしょう」
このメッセージは、映画を愛した黒澤監督のメッセージのように思えました。
ラストは黒澤監督自身の最後の夢を描いたような感じで、この映画が黒澤監督の遺作となったのは何かの因縁のように思えます。
いい映画なのに、退屈という評論が多いようで残念です。「黒澤だから」とか「黒澤なのに」とか先入観を持たずに観たい映画です。
※今年48本目の映画鑑賞