金魚のうたた寝

映画、漫画、小説などの話

丹下左膳餘話 百萬両の壺

丹下左膳餘話 百萬両の壺   1935年

山中貞雄監督

問題

伊賀の柳生家では、有事に備え百万両を密かに持っていた。その隠し場所を記した地図をコケ猿の壺に入れていた。柳生家の当主は、そうとは知らず、たいそう貧相なコケ猿の壺を弟の婿入り道具にする。これにへそを曲げた弟は、これまたそうとは知らずクズ屋に払い下げてしまい・・・のんきな左膳とお藤がひょんなことから育てることになった、チョビ安が金魚入れにしていつも持ち歩いている壺が実は、百萬両の謎を秘めたそれであった。

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28歳の若さで亡くなった昭和初期の名匠・山中貞雄の代表作として知られ、大河内傳次郎扮する浪人・丹下左膳を主人公に描いた傑作時代劇。

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丹下左膳というキャラクターは主君に裏切られ右目と右腕を失ったことから、武士の生き方に不信感を持つニヒルな剣士で、今でいう、アンチヒーローです。

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本作は、原作のイメージとは異なるホームコメディ調で制作されたことから、原作者から苦情がつき、後でタイトルに余話とつけたそうです。

戦前というと軍国主義の暗いイメージが強いのですが、明るく楽しい本作を観ると、戦前と戦後の文化に大正デモクラシーからの連続性があったことを感じます。

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映画で、役者の着こなしや所作が自然な感じがしました。戦前には、まだ江戸時代の風情や記憶が残っていたのかと思います。さりげなく口調や振る舞いにリアリティがあります。

着こなしについていうと、そもそも身長から違うのですね。大河内 傳次郎は160cm。小柄な日本人だから着流しが似合うのだと思います。

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2004年リメイク版で左膳を演じた豊川悦司は186cm。スラっとして外国人が和服を着ているみたいですね…。

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監督の山中貞夫さんは日中戦争に召集されて28才の若さで戦病死しました。全24本の作品のうち、ほぼ完全な形で残されたのは『丹下左膳余話 百萬両の壺』『河内山宗俊』『人情紙風船』の3本だけだそうです。戦禍で失われた才能や貴重な文化遺産が惜しまれます。

本作、貴重な作品を観れて良かったです。

※今年59本目の映画鑑賞。