物語
食肉解体工場で働く青年ラヒカイネン。ある日、仕事が終わった彼は、町中でひとりの中年男の後をつけ、そのまま家の前まで行く。電報と偽り、ドアが開いたところで男にピストルをつきつけるラヒカイネン。命乞いの言葉も虚しく、理由も分からないまま殺される男。そこへ、若い女が買い物袋を下げて入ってきた。彼女はケータリング店の店員で、この家で開かれるはずだったパーティの手伝いに来たのだ。だが、女はなぜか悲鳴も上げずに彼を逃してしまう。やがて捜査線上にラヒカイネンが浮上するが、彼は巧みに捜査を攪乱して逃げ続ける…
フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督の26歳のデビュー作。
映画はゴキブリを斧で切り殺すシーンから始まる。食肉解体工場で働くラヒカイネンが牛の解体作業を進める。「アンダルシアの犬」のようなシュールさ。
無表情で何を考えているのか分からない青年像は「タクシードライバー」にも似ている。
実業家を殺害するラヒカイネン。直後に殺人現場に偶然入ってきた手伝いの女エヴァ。エヴァはラヒカイネンを逃してしまうばかりか、警察での目撃者証言も偽り、ラヒカイネンに自首を促す。
見ず知らずの男をかばう展開は不自然な気はするが、ドストエフスキーの「罪と罰」(僕は未読)では、殺害現場に偶然入ってきた妹を殺してしまいラスコールニコフは罪の意識に苛まれるらしい。
翻案の妙で、エヴァは殺されないがライヒカイネンの心に良心を呼び戻す存在として描かれている。
文豪ドストエフスキーの作品の哲学を損なわず、現代風なサスペンスに翻案した監督の力量に感服。
※今年205本目の映画鑑賞。