金魚のうたた寝

映画、漫画、小説などの話

トーマの心臓

トーマの心臓     /     萩尾望都

物語

冬の終わりのその朝、1人の少年が死んだ。トーマ・ヴェルナー。そして、ユーリに残された1通の手紙。「これがぼくの愛、これがぼくの心臓の音」。信仰の暗い淵でもがくユーリ、父とユーリへの想いを秘めるオスカー、トーマに生き写しの転入生エーリク……。透明な季節を過ごすギムナジウムの少年たちに投げかけられた愛と試練と恩籠。

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萩尾望都さん、竹宮恵子さんら、花の24年組は「ポーの一族」や「風と木の詩」などで、少年同士の同性愛を表現した作品を発表している。本作「トーマの心臓」は、その草分け的な作品。ドイツのギムナジウム(全寮制学校)での少年同士の愛と葛藤を描いた作品だ。

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トーマ・ヴェルナーの死から始まる物語。ユーリは、はっきり言って暗い…。連載当初は人気がなくて、打ち切りになりそうだったとか…。

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トーマに生き写しの転入生エーリク。ユーリは最初はエーリクに怒りや憎しみをあらわにするが、エーリクの母の事故死の知らせが入り、悲しみにくれるエーリクをユーリは慰め、これを機会に2人は次第に心を通わせていく。エーリクもユーリに対する愛に気付き、ユーリとトーマの過去に葛藤する。

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心を頑なに閉ざすユーリであったがエーリクの純粋で無償の愛が、ユーリが失った愛と信仰を取り戻すきっかけとなる。

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萩尾望都竹宮恵子などは、少女漫画に少年愛を持ち込んだことで、BL(ボーイズラブ)の始祖とも言われる。なぜ、少女漫画で少年愛が描かれるようになったのか?理由は面白い。少女漫画では男女の性表現には厳しい規制があったが、何故か男同士だとOKだったので少女漫画で性表現を伴う作品を発表する手段として見出されたようだ。また恋愛に積極的な女性キャラは読者にジェンダー的な反感を買うこともあり、少年を主人公にする方が自由に恋愛を描けたということもあるようだ。

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恋愛と葛藤、思春期の心の動きが繊細に表現されていて、キリスト文学的な哲学も感じさせる名作でした。

※今年の漫画読書 3冊目