長屋紳士録 1947年
小津安二郎監督
物語
終戦直後の東京下町。夫と子供を失ったおたねは、一人で荒物屋を営んでいた。近所に住む占い師の田代が、見知らぬ子供を連れておたねの家を訪れる。田代は戦争孤児らしい幸平という名のその子供を、一晩だけ預かってほしいとおたねに押しつけた。幸平を家に泊めたおたねだったが、他に子供を養えそうな家もなかったため、幸平がかつて住んでいたという茅ヶ崎に連れて行くことに。しかし家も家族も見つからず、おたねは仕方なく引き続き幸平を家に住まわせることにした。
戦争から帰還した小津監督が作った、戦後の第一作目。下町の長屋を舞台にした人情劇。
迷子を押し付けられたおたねさんが、始めは邪険に扱うが、だんだん情が移っていくあたりがユーモラスで楽しい。飯田蝶子さん(おたね)のコミカルな演技も良かった。
劇中で、笠智衆さんが披露する「のぞきカラクリの唄」。作品に華を添えています。しかし、宴席で唱和する文化ってなくなりましたね…
カメラに写る終戦直後の日本の風景が痛々しい。焼野原でなーんも無い。
築地本願寺や聖路加病院辺りも見られる。作品内容と関係ないけど貴重なフィルムだな。
映画のラストは上野公園の西郷さんで終わります。当時、戦災孤児の浮浪児が10万人以上いたそうです。単なる人情劇では終わらず戦災孤児の救済を訴えて物語を結びます。
隠れたメッセージかもしれませんが、戦地から生還した小津監督が一番初めに撮りたかったのは、きっと「母親への想い」だったのでしょう。記念撮影のシーンは心に迫ります。素晴らしい作品でした。
※今年16本目の映画鑑賞。