金魚のうたた寝

映画、漫画、小説などの話

人生案内

人生案内                       1931年

ニコライ・エック監督

物語

1923年、モスクワには戦争で孤児となった浮浪少年で溢れていた。「ソ連に浮浪青少年があってはならぬ」というレーニンの言葉により、政府は少年らを保護して共同工場に送って就業指導を進めていたが、浮浪児らは勤労を嫌い工場から脱走してしまう状況だった。

共同工場の指導者セルゲーエフは、強制ではなく少年らの自主性を尊重する”自由勤労”という新しい教育アプローチで、駅で犯罪を繰り返していた浮浪少年のムスターファらを労働に従事させる。暇つぶし程度に共同工場に来た少年らは、やがて労働に喜びを見出し更生していくのだが…

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ソ連最初の音声付き映画。1932年の第1回ヴェネツィア国際映画祭において監督賞を受賞している。

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ソ連初のトーキー。“ガチ”のプロパガンダ映画でありながら”洗脳的”ではなく、健全だった頃のソビエト共産主義の自信を感じさせます。

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1930年代、戦乱による貧困や浮浪児の問題はソビエトだけでなく、当時のヨーロッパに共通した問題であったでしょう、第一回のヴェネチア映画祭で監督賞を受賞しています。

筋書きや演出も面白く、見捨てられた浮浪児らが自立できるよう支援するセルゲーエフの姿は感動的です。

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浮浪児のリーダー的な存在、モンゴル系のムスターファ。初めて会ったセルゲーエフを医者と勘違いして裸になったり、お金を渡され食料品を買いに行かされると”習慣で”ハムをくすねてきたりと、なかなかユーモラス。いい味出していました。

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ロボットやAIの登場で肉体労働や単純事務が無くなり、モノポリーマネーゲームが横行して額に汗して働く者が馬鹿を見る時代。

今の日本に”浮浪児"はいないが、”ニート"は70万人もいる。古典的な共産主義プロパガンダ映画を観て、働くことに喜びを見出しにくなった現代社会の難しさを感じてしまった。

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今年233本目の映画鑑賞。

休憩 : 悲しきこと (涙)

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首里城の火災、後世に残すべき史跡が跡形もなく燃えてしまうい、400点以上もの美術品も焼失した。本当に悲しい。

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海外ではノートルダム聖堂の火災もありました。こちらも心痛みます。

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過去には金閣寺の炎上、空襲で焼失した名古屋城などもあります。ありきたりの意見で申し訳ないですが、文化遺産を守るのは未来への責任だと思います。

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もし、古代の出雲大社や安土桃山城を目の当たりにしたら、歴史や文化に対する認識も変わるのではないでしょうか。是非、首里城を再建して欲しいと思っています。

失われた史跡に哀悼を捧げる。

おしまい。

その男ゾルバ

その男ゾルバ                  1964年

マイケル・カコヤニス監督

物語

父親が遺した炭鉱を稼働させるために、クレタ島へ向かうイギリス人作家バジル。道中知り合ったエネルギッシュでお調子者のギリシャ人・ゾルバを雇い、一攫千金の夢をみてクレタ島へ渡る…

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ギリシャの作家ニコス・カザンザキスの小説を原作とした作品。1964年のアカデミー賞では7つの部門でノミネートされ、助演女優賞、撮影賞、美術賞を獲得している。

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舞台となるのは1900年頃のギリシャエーゲ海に浮かぶクレタ島。カラー映画なら海も空も綺麗で良かっただろう。残念ながらモノクロ。

クレタ島の寒村は貧しく閉鎖的で、よそ者を排斥して交わらない。映画では村人の信じられないよう蛮行も描かれている。

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タイトル通り、ドラマの主役はゾルバ。元は炭鉱夫の男。ドラマでは明かされなかったが65才らしい。作家で何事にも冷静なバジルとは反対で、”学”はないが人生経験が豊富で情熱的だ。

このゾルバという男の魅力を存分に演じているのはアンソニー・クイン。彼は、フェリーニの「道」でザンパノを演じていましたね。ワイルドな男が似合います。

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女優さんも素晴らしい。フランス人の元・高級娼婦、マダム・ホーテンスを演じたリラ・ケドロヴァ。年老いた”女"の情念を見事に演じていました。リラは、この役でアカデミー賞助演女優賞を獲得しています。

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印象に残ったのは村の美しい未亡人を演じるイレーネ・パパスギリシャ美人!目ヂカラありますね。絵が引き締まります。

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映画の内容ですが、ゾルバは喩えるならばギリシャの寅さんかな。本人は無学でいい加減だけど、図らずも人生というものを教えてくれる。そんな存在。

カコヤニス監督の映像は黒澤明のような迫力があり、作品世界に引き込まれました。心に残る名画でした。👏

今年232本目の映画鑑賞。

泥棒成金

泥棒成金                        1955年

アルフレッド・ヒチコック監督

物語

猫の異名を持つ宝石泥棒のジョン・ロビーは、今では引退し、リビエラの別荘で暮らしていた。ある日、偽者の猫が現れたと聞いたロビーは、偽者が誰なのかを確かめるべくニースへ。そこでロビーはアメリカから避暑に訪れた大金持ちの娘フランセスを好きになってしまう。そんな中、偽者の猫がフランセスの母の宝石を狙い……

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ケーリー・グラントグレイス・ケリー。ヒチコック監督のスリリングなストーリー。パラマウントが開発したビスタビジョンによる風光明媚な南仏の風景も売り。

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この映画、とにかくグレイス・ケリーが良かったな。綺麗なだけでなくセクシーでロマンティック。魅せる。

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カーチェイス・シーン。見え見えの合成だけどね。ケリーが颯爽と運転してカッコいい。

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クライマックスの仮装パーティー、豪華な衣装が見どころだけど、グレイス・ケーリーの背中に目がいっちゃた。

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ヒチコック監督作品にしては”軽妙”なロマンティック・サスペンス。楽しい映画でした。

※今年231本目の映画鑑賞。

父親たちの星条旗

父親たちの星条旗               2006年

クリント・イーストウッド監督

物語

第2次世界大戦の重大な転機となった硫黄島の戦いで、米軍兵士たちはその勝利のシンボルとして摺鉢山に星条旗を掲げる。しかし、この光景は長引く戦争に疲れたアメリカ国民の士気を高めるために利用され、旗を掲げる6人の兵士、ジョン・ブラッドリーらはたちまち英雄に祭り上げられる。

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クリント・イーストウッド監督、硫黄島2部作のアメリカ側から描いた作品。

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硫黄島で撮られた一枚の写真から始まる物語。この一枚はプロパガンダ用に撮られた写真だった。写真に写った6人の兵士らは英雄と祭り上げられるのだが、帰還後も苦悩を抱えて生きることになる。

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戦争に英雄などいない。英雄は戦争を正当化するために作りだされる。

硫黄島からの手紙」は硫黄島で玉砕した日本兵が描かれるが、一方の「父親たちの星条旗」では戦場での戦いだけでなく、帰還した兵士たちの”もう一つの”戦いが描かれる。

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この映画は戦争反対!という単純なものではない。戦争をゲームのように考える政治家や軍部トップたちへの批判、そして実際の戦争を知らずに勝利や英雄に熱狂する大衆への警鐘である。

第二次世界大戦後もアメリカは朝鮮戦争ベトナム戦争湾岸戦争、そしてイラク戦争と大きな戦争を繰り返し、多くの若者を犠牲にしている。彼らの戦争は終わっていない。

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硫黄島からの手紙」より難しい映画だった。アメちゃんもツラいね。

※今年230本目の映画鑑賞。

三度目の殺人

三度目の殺人               2017年

是枝裕和監督

物語

やり手の弁護士の重盛は、拘置所で“犯人”三隅と面会する。三隅は自分を解雇した会社の社長を殺して財布を奪い、火をつけた容疑で逮捕され、容疑も認めていた。その上、30年前の強盗殺人の前科があり、今回は死刑になる確率が高い。重盛は何とか刑を無期懲役に持って行こうとするが、面会のたびに三隅の供述が変わっていく。やがて、事件の隠された人間関係が明らかになるが、三隅の“動機”だけはわからず、重盛は苛立っていく。

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昨日のテレビ放送て見ました。福山雅治が主演の「マチネの終わりに」、是枝監督の「真実」の公開に合わせた放映のようですね。

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弁護士と被告人、福山雅治役所広司のW主演です。供述をころころと変える被告。ドラマでは事件の真相は明らかにされません。

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それでも、役所広司演じる三隅高司が、広瀬すず演じる山中咲江という娘のために、その父親を殺してしまうというプロットは語られます。

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作品には十字架をイメージさせるシーンが多く登場します。咲江の代わりに罪を背負った三隅は、人をその罪から救うために身代わりに磔になったキリストなのでしょうか?思わせぶりですが、三隅は人の考えを知るテレパスのような特殊能力があるようです。

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判決後の重盛と三隅の会見シーン。ガラス越しに二人の顔が重なる演出が光る。

重盛が呟く「単なる器に過ぎなかったのか。」という謎の言葉。三隅が犯行を否認し咲江を証言台に立たせないようにしたのは、三隅の意思ではなくて重盛の意思だったのかもしれません。いずれにせよ、彼はキリストではなく、ただの人間(父親)に過ぎないと示しています。

実の親子ではない擬似的な親子や家族。「そして父になる」「海街 diary」「万引き家族」とも共通するテーマですね。

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看守と不思議な能力を持った囚人を描いたスティーヴン・キンググリーンマイルのような雰囲気もある。法廷サスペンスでも社会派ドラマでもなく、スッキリしないミステリーだが、ユニークで面白い。

※今年229本目の映画鑑賞。

ジョーカー

ジョーカー                   2019年

トッド・フィリップス監督

物語

「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。

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バッドマンの敵役ジョーカーの誕生秘話を描いた作品。第76回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。

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アメコミのスピンオフ・ストーリーが金獅子賞を獲得しというのは驚いた。本当に名作なのか半信半疑、興味津々、劇場へ観に行った。

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暗い物語で一般ウケはしなさそうだが、良く出来た映画でマニアックに面白かった。

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ずばり、スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」と「キング・オブ・コメディ」を思い出しますね。孤独と疎外感、社会への怒り、じわじわと狂気が男を蝕み、最後に爆発する。

ホアキン・フェニックスの変態的な演技も決まっていました。

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金獅子賞を獲得しただけのことはある。僕は興奮気味で劇場から出たのだが、隣を歩いていたカップルの感想が耳に入ってきた。「変な映画だったね…」「… (沈黙)」。気まずい雰囲気としくじり感が漂う…

これは、一人で観に行って欲しい映画だね。

※今年228本目の映画鑑賞。