金魚のうたた寝

映画、漫画、小説などの話

星の子

星の子        2020年

大森立嗣 監督

物語

ちひろは、高校受験を控えた中学3年生。未熟児として生まれ病弱だったちひろの体調が改善したことをきっかけに、両親は“特別な生命力を宿した水”を販売している新興宗教に心酔し、今では家中がその宗教の祭壇やグッズで溢れ返っていた。転居を繰り返し生活も貧窮していく林家を、周囲は好奇の目で眺めていた。そんな家庭に愛想を尽かした5歳年上の姉は家を出ていったが、ちひろは愛情深い両親との生活を大切にしていた。ある日、新しく赴任してきた数学の教師・南に恋をしたことがきっかけで、ちひろにも変化が生まれ始める──

原作は芥川賞作家・今村夏子の同名小説。監督は「日日是好日」で第43回報知映画賞監督賞を受賞した大森立嗣。主演、芦田愛菜

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芦田愛菜ちゃん。子役時代から知っていると、つい「ちゃん」付けしてしまいますが、天才子役から女優へと着実に成長していますね。ちひろ役、見事に演じていました。

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カルト宗教にハマってしまう両親。モデルになった団体があるのかどうか不明ですがリアルにありそうな話です。人が何を信じようと(他人に迷惑をかけないなら)自由ですが、両親が信者の場合、家庭を選択できない子供はツライですよね。

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解釈が分かれそうなラストシーン。僕は素直に家族愛の映画と割り切りましたが、同じ星が見えないというシーンには、ちひろが両親から離れることが暗示されているのかもしれません。

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久しぶりの映画鑑賞。スッキリしない映画でしたが、ちひろの心情が丁寧に描かれていて、なかなか良かったです。芦田愛菜の演技が金星でした。次の出演作品にも期待してしまいます。

※今年18本目の映画鑑賞。

 

 

スパイの妻

スパイの妻       2020年

黒澤清監督  

物語

1940年、貿易会社を営む福原優作は満州を訪れ、そこで日本軍(関東軍)の残虐な行いを目撃する。優作は正義感からこの事実を国際社会に暴露することを決意し、現地で手に入れた秘密情報を日本に持ち帰ってくる。妻・聡子は秘密を知って最初は夫を止めようとするが、結局は妻とし大義に参加することになる。

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2020年6月にNHK BS8Kで放送された黒沢清監督、蒼井優主演の同名ドラマを劇場公開用にした作品。第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。

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2020年の公開、銀獅子賞を受賞しています。

この映画は、細菌兵器の研究のために捕虜を使った人体実験を行っていたという旧日本軍の戦争犯罪を扱っています。「悪魔の飽食」で有名な731部隊の話ですが、個人的には、捏造とまでは言いませんが、どこまでが本当なのか疑問に思っています。議論が多いことを事実のように描くのはどうかと思いました。

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731部隊はさておき…

とにかく蒼井優が良かった。ドラマ的には聡子の幼馴染の津森(東出)との関係や、優作の人物像、ラストの展開などドラマ的に物足りなさもありますが、蒼井優の圧巻の演技に魅了されました。

※今年17本目の映画鑑賞。

アバウト・シュミット

アバウト・シュミット   2002年

アレクサンダー・ペイン監督

物語

保険会社で働いていたウォーレン・シュミットは定年退職を迎えた。66歳。退職後の生活に馴染めないウォーレンは、アフリカの子供たちを援助するプログラムを知り、6歳の少年の養父になって彼に手紙を書くようになる。そんなある日、妻ヘレンが急死する。そして葬儀の準備に追われるシュミットのもとへ、愛娘ジーニーが婚約者ランドールを連れて戻ってきたが…

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原作はルイス・ペグリーの同名小説。定年退職をむかえ、第二の人生を前にした男の悲哀をコメディ・タッチに描く。ジャック・ニコルソンがゴールデングローブの主演男優賞を受賞した。

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定年の時刻をオフィスで迎えるシュミット。仕事人間だった彼にとって死を迎えるような瞬間なのでしょうね。アメリカ人って仕事より家庭優先のようなイメージがありますが、こういうタイプの方もいるのですね。

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キャンピング・カーでの食事。奥さんの夢で、シュミットの定年を機にキャンピング・カーで旅行することを計画していて、シュミットは高価なキャンピング・カーも購入しましたが、その奥さんにも先立たれてしまいます。

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一人娘が連れてきた結婚相手は、まともな仕事にも就いていないような男。シュミットは二人の結婚には反対ですが、娘は父の意見を聞こうとしません。

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いい映画でした。ジャック・ニコルソンのユーモア溢れる演技も素晴らしい。ラストシーンが感動的で、余韻に浸るためエンドクレジットを最後で観ました(音楽も素敵です。)

しかしコメディとはいえ、誰にでもくるリタイア問題、身につまされます…。

※今年16本目の映画鑑賞。

シャーロットのおくりもの

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物語

エラブル家に生まれた子豚のウィルバーはとある牧場に買い取られ、無邪気に暮らしていたが、あるとき、自分はいずれ殺されて肉にされてしまう運命であることを知る。嘆くウィルバーに小屋の上から声をかけたのは後に親友になる牝蜘蛛、シャーロット。彼女は驚くべき方法でウィルバーを救おうとする。果たしてウィルバーはどうなってしまうのか......

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米国の児童文学作家 E・B・ホワイト著。蜘蛛のシャーロットと子豚のウィルバーの友情を描いた物語。1952年に出版され全世界4500万部のベストセラーとなった。

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児童文学ですが感動しました。ストーリーも面白いし、動物たちのキャラがいきいきとしています。また蜘蛛のシャーロットが含蓄のあるセリフに友情や人生の意味について考えさせられます。挿絵もいい。

 

原作に感動したので、1973年に製作されたアニメ版、2006年の映画の両方を鑑賞しました。

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まずアニメ版。製作はトムとジェリーで有名な米国のハンナ・バーベラ・プロダクション。ミュージカル仕立てになっています。ストーリーは原作に忠実ですが、原作の持つ味わいまでは表現できてないかな…。

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余談ですがトムジェリーを作った製作会社だけあって、テンプルトン(ネズミ)の動きは上手かったです。

 

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次に2006年の実写映画。アニマトロニクスを担当したのは、子豚の活躍を描いた「ベイブ」と同じスタン・ウィンストン・スタジオ。

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だいたい原作通りだけど、アレンジもたくさんあって、女の子(ファーン)のファミリードラマ的な要素やネズミのテンプルトンがカラスに襲われて戦うアクションなど原作にはないシーンも追加されています。

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演出はありきたりながら、ファミリー向けのいい映画でした。

 

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結局、これは小説がお勧め。

シャーロットとウィルバー、動物たちの会話の面白さや、E.Bホワイトの語り口など、"噺"の上手さが、映像作品だとイマイチ伝わってこないのですね。改めて文学の力って奥深いものだと思いました。

※2本まとめて、今年15本目の映画鑑賞。

リアリズムの宿

リアリズムの宿   2003年

山下敦弘 監督

物語

駆け出しの脚本家・坪井と映画監督の木下は顔見知り程度でしかないが、なりゆきでひなびた温泉街を一緒に訪問。ふたりが海を眺めていると、若い女性が半裸で駆けてくる。「一切合切を波にさらわれた」という彼女を加え、ちぐはぐな旅を続けるが…

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原作は「ねじ式」などで有名な、つげ義春の漫画。オフビートなロードムービー。山下監督は「日本のアキ・カウリスマキ」「日本のジム・ジャームッシュ」などと称される(らしい)

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原作者のつげ義春は旅が好きで、旅を題材にした漫画を多く書いたそうです。この作品に出てくる宿なんかも、きっとモデルになったものがあるのかと思います。

もっとも、今時(2003年公開)、こんな宿はないだろうが、リアリズムと言うよりはシュールな感じで、それはそれで面白い感じです。

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謎の少女、敦子(尾野真千子)。「真冬の海で泳いでいて、一切合切を波にさらわれた」と、通常ではあり得ない登場シーン。なんか訳ありのようですが、坪井、木下に助けられて、そのまま二人の旅に合流してしまう。

行き当たりばったりの展開は、いかにもロードムービーっぽい。ラストで敦子の素性が分かりますが、全てが明かされることなく余韻が残る終わり方でした。

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「旅行」ではなくて「旅」みたいな…

あてもなく流離う、青春時代もたぶん旅みたいなものですね。原作を読んでいないのが残念。いつか読んでみたいです。

※今年14本目の映画鑑賞。

時計じかけのオレンジ

時計じかけのオレンジ             1971年

スタンリー・キューブリック監督

物語

近未来のロンドン。毎日のように暴力やセックスに明け暮れていた不良グループの首領アレックスは仲間の裏切りによって警察に逮捕され、懲役14年の刑に処されてしまう。

アレックスは、暴力行為に生理的拒絶反応を引き起こす「ルドヴィコ療法」の被験者となることを条件に刑期を短縮され、”真人間”となって出所するのだが…

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アンソニー・バージェスの1962年に発表した同名の小説をキューブリックが映画化した作品。イギリスでは72年の公開後、模倣犯が横行したため、99年まで上映禁止となった。

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長年、見ようか見まいか悩んだ「食わず嫌い映画」を遂に鑑賞しました。想像どおりカルトっぽく気持ち悪い映画でしたが、斬新な映像で、キューブリックの鬼才ぶりをうかがわせます。主演のマルコム・マクダウェルのカリスマぶりもなかなか。

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サイケでレトロ・フューチャーなファッションやセット。50年前の映画だけど、一周回って新しい感じがします。

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アレックスの洗脳シーン。暴力映画を強制的に鑑賞させ薬物で不快感を与えることで、暴力に対して条件反射的に不快感を抱くようにするというもの。撮影中に事故があり、マルコム・マクダウェルは危うく失明するところだったとか。

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原作小説には「最終章」があって、18才になったアレックスが暴力を卒業しようと決意するエンディングになるそうです。

この最終章をカットした映画のエンディングについて、原作者バージェスとキューブリックの間で一悶着あったらしいですが、映画の不気味な終わり方の方がクールかと思いました。

※今年13本目の映画鑑賞

赤い子馬

赤い子馬                            1949年

ルイス・マイルストン監督

物語

 牧場主のフレッドは、妻アリスと息子のトム、使用人のビリーと共に平穏な日々を送っていた。フレッドから子馬を贈られたトムは、ギャビランという名前を付けて、ビリーに見守られながら調教を始める。
ある雨の日に、逃げ出したギャビランは病気になってしまい、トムは、ビリーが馬小屋に入れてくれなかったと思い彼を恨むのだが…

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怒りの葡萄」「エデンの東」の原作者としても有名なジョン・スタインベックが書いた少年向けの小説が原作。映画化にあたりスタインベック自らが脚本を手掛けた。

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牧場の少年の映画なので、ほのぼのとした感じの作品ですが、トムが初めて貰った子馬は病気にかかり死んでしまいます。

悲しいエピソードです。子馬を育てたことがある人は少ないでしょうが、ペットを飼ったことがある人ならば、その死を初めて経験する少年の気持ちはわかるかと思います。

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ドラマは少年と子馬だけでなく、移り住んだサリナスの住民と馴染めずに悩み父のフレッドや、開拓時代が忘れられない祖父など家族のエピソードも語られます。

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あと牧場で働く馬丁のビリーとトムの友情がドラマが見どころ。といいますか、ビリー役にロバート・ミッチャムという人気スターをキャスティングしていますので、これがメインのドラマのようです。

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ポスターを見ると使用人のロバート・ミッチャムとトムの母マーナ・ロイが主演俳優なんです。

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フレッドが黄昏るのも無理ないですね…

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エピソードにまとまりがなく映画的にはイマイチすっきりしなかったですが、少年と子馬は可愛いらしくて良かったです。

※今年12本目の映画鑑賞