わが谷は緑なりき 1941年
ジョン・フォード監督
物語
19世紀末のイギリス・ウェールズ地方の炭坑町を舞台にした作品。男たちが皆炭鉱で働くモーガン一家の在りし日の姿を、町を出ようとする年老いた末弟のモーガン・ヒューが回想する。石炭産業の不況の中の苦しい生活、長兄の事故死、姉の不本意な結婚、落盤による父の死など様々な苦難があったが、振り返れば麗しく美しい日々であった。
ジョン・フォードが監督し、1941年のアカデミー作品賞、監督賞、撮影賞、男優助演賞、美術賞、装置賞を獲得した名作。
舞台となる炭鉱町は、ウェールズの炭鉱をコピーしてサンタ・モニカの山地に作った80エーカ(東京ドーム7個分)のオープンセットです。イギリスの産業革命を支えた石炭ですが、南ウェールズのロンダ渓谷から取れる石炭は特に良質で高値で取引されたそうです。日露戦争の際の日本の軍艦もウェールズ産の石炭を積んでいました。
ヒューが子供の頃のロンダ渓谷は美しく、まさに”緑なりき”ですが、やがて石炭採掘によるボタ(捨石)に覆われてしまいます。映画はモノクロですが印影が際立ち美しく叙情的です。
本当は家族の1エピソードに過ぎないはずですが、姉アンハード(モーリン・オハラ)と谷に赴任してきた牧師グリュフィード(ウォルター・ピジョン)のロマンスが映画の看板です。まっ、興業的な事情でしょう。
長兄や父を炭鉱事故で失い、不況の影響で地域社会や家族がバラバラになり、本人も町を出るのですが、ヒューが回想するのは、暗い思い出ではなく、父親への愛情や誇りなど輝かしい思い出でばかりです。
この映画は言葉には尽くせない傑作です。
※今年36本目の映画鑑賞